「森の異変、ですか?」
「ええ。そのせいで、うちだけじゃなくイーノックカウの飲食店の多くが困っているんですよ」
僕たちに話しかけてきたおばさんはね、このお店の店主の奥さんなんだって。
でね、そのおばさんが言うには、イーノックカウの近くにある森に怖い魔物が出るようになったから、前なら簡単に手に入ったお肉がなかなか買えなくなっちゃったそうなんだ。
「うちの料理は少し前までブルーフロッグって言う大カエルの肉を使っていたんですよ。でも少し前に毒をもつブルーフロッグの変異種が大暴れしたみたいで、それ以来簿の変異種を嫌って冒険者がブルーフロッグを獲ってきてくれなくなってしまったんです」
ブルーフロッグって言うおっきなカエルのお肉は、煮ても焼いてもとってもおいしいんだって。
それにそんなに強くないから簡単に狩れるうえに、1匹からでもかなりいっぱいお肉が取れるから、街のお料理屋さんはみんな使ってたんだってさ。
「そりゃあ、ブルーフロッグと同じくらい美味しい肉は別にありますよ? でもそんな肉は値段が高くてね」
「確かに、この店を利用する側からすると、大幅な値上げをされてはちょっと困りますね」
「でしょう? だから味が落ちるのは承知で、同じくらいの値段で買えるジャイアントラットの肉を使うようになったんです」
そっか。このお肉って、ジャイアントラットのお肉だったんだ。
おばさんが言うには、ジャイアントラットのお肉はきめの細かい赤身肉だからお料理の仕方次第でおいしくなるんだって。
でもね、このお店の煮込み料理の味付けは脂が無いお肉だとダメだから、ジャイアントラットのお肉だとあんまりおいしくないんだってさ。
「それにねえ、困ってるお店はブルーフロッグの肉を扱ってるところだけじゃないんですよ」
「ほかにもあるんですか?」
「ええ。ブルーフロッグの皮は、弾力がある上に水を全く通さないからとても重宝されるんです」
ブルーフロッグの皮は魔物のみたいに硬くないから防具に使われる事は無いけど、雨具に使ったり水やお酒を入れる袋に使ったりするんだって。
特に袋は何にも入れてない時はとっても小さいのに、すっごく膨らむもんだからお水がいっぱ入るらしいんだよね。
だから旅商人さんたちがイーノックカウに来るとよく買ってくそうなんだけど、その袋を作る皮が手に入らないからみんな困っちゃってるそうなんだよ。
「それにねぇ」
「まだあるんですか?」
「ええ。これはブルーフロッグとは直接関係ないんだけど、さっき話した変異種の騒ぎで、森に行く人自体が減ってるらしいのよ」
ポイズンフロッグの騒ぎの時って、冒険者ギルドにケガした人がいっぱいいたよね。
でも実は、森の入口んとこでお店を出してる人たちや天幕にいた商業ギルドの人たち、それに森の入口まで薬草を採りに行ってるだけの人たちもいっぱい怪我したんだって。
でね、そんな人たちがみんな、ポイズンフロッグを怖がって森に行きたがらなくなっちゃったらしいんだ。
「前の騒ぎの時は、森の中に入らない人たちも奥から逃げてきた冒険者に巻き込まれたでしょ? だから、またいつ同じことが起こるかもしれないからってね」
森って、動物や魔物が取れるだけじゃないんだよね。
薪の代わりになる枯れ枝とかはもちろん、畑で作れない薬草やハーブ類、それに森ん中でしか育たない果物とかもあるんだ。
だからそう言うのを採りに行ってくれる人がいなくなっちゃうと、とっても困っちゃうんだよね。
「うちは畑で作る香辛料しか使ってないからいいけど、近所にあるお店は森のハーブをふんだんに使った鶏料理を得意にしてたから、今じゃ開店休業状態になってしまってるわ」
「いやいや、ハーブより薬草だろう。もしその話がホントなら、今のイーノックカウは薬が手に入りにくくなってるんじゃないのか?」
「ああ、薬草に関しては領主様が冒険者に依頼して採ってきてもらってるから何とかなってるわ。でも、流石に枯れ枝やハーブまではとってきてくれないから、この頃はその手のものが値上がりしてきてるわね。ほんと今が夏でよかったわよ。枯れ枝の供給が滞ったおかげで薪の値段も少しづつ上がってきてるからね。これがもし冬だったとしたらと考えるとぞっとするわ」
うちの村でもそうだけど、狩りのついでに森で拾ってくる枯れ枝ってかなりの量になるんだよね。
そのおかげで冬でも薪をあんまり作んなくてもいいし、何よりその薪に火をつける時はそんな枯れ枝や枯れ草が大活躍するんだ。
だからそう言うのが手に入らなくなっちゃうと、みんな困っちゃうんだよね。
「なるほど。まさかポイズンフロッグが出ただけで、それほどの被害が出てるとはな。ギルドがわざわざシーラの装備を整えてまで討伐依頼してくるわけだ」
「なんだ。あんたら、ギルドから依頼を受けてるのかい? だったら頑張って退治しておくれよ。このままブルーフロッグの肉が手に入らなかったら、うちの店も傾いてしまいそうだからね」
おばさんは、ポイズンフロッグを退治してまたブルーフロッグのお肉が手に入るようになったら、その時はこのお店のおごりでいっぱいお料理を出してあげるから頑張ってねって、お父さんの背中をたたきながら大きな声で笑ったんだ。
ちょっと短めですが、キリがいいのでここまでで。
さて、思った以上にポイズンフロッグの発生は困った事になっているようです。
なにせ冒険者は怖がって手を出さないから全く討伐されないし、そのせいで前回の騒ぎの当事者だけでなく、その事件を知っている人も同じような目にあうのが怖くて森に入りませんからね。イーノックカウ経済に大打撃です。
その上この話には出てきませんでしたが、森の入口付近にいる鳥や獣なんかを狩る普通の狩人も今は森に近づかないので、その手の物まで実は不足し始めているんですよね。
シーラお母さん。責任重大ですw